2016年2月16日火曜日

日本変人列伝七 永井荷風

文人は変人の宝庫。まともな人のほうが少ないと思うほど。考えてみれば、文芸などという世界は、あっちこっちの人格に入り込み、じめじめした内面や人間性の襞に分け入り、それを暴いて作品にする仕事、多重人格にして露悪趣味でないと務まらない。自我が強烈だから周囲との衝突も激しい。

永井荷風。徳川家に仕えた武士の家系、父はエリート官僚、その長男に生まれる。子供の頃から英才教育。漢学、絵画や書を学び、将来は実業家として一家の名誉継承を嘱望される。多感な十五の歳に病気をして休学。その際文学に出会う。これがいけなかった、とは後になっての本人の述懐。父は何とか息子の軌道修正を図ろうと海外留学させるが、すでに本人は文芸の虜になっており、帰国後「あめりか物語」「ふらんす物語」などを発表。創作の世界への傾倒が始まり、やがてもう「どうにも止まらない」状態となる。

父の死後、抑えられていた自我が暴走。遺産は長男特権で独占、意に沿わない形で結婚していた商家の娘とは離縁し芸妓を入籍。しかしこれもほどなく離婚。その後は銀座や浅草の花街通いを繰り返し浮名を流すが、創作熱はますます盛ん(のち文化勲章受賞)。晩年も一人住まいの自宅から風俗街へ繰り出す生活が続いていた。最後はゴミ屋敷同然となった自宅で死去。今で言う「独居老人の孤独死」の状態で発見される。79歳。常に持ち歩いていたバッグには今の貨幣価値で三億円相当の財産(通帳や権利証、現金など)が残されていたという。



0208 kahuu nagai

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