2016年5月16日月曜日

パイプの煙

煙草はやめたが、それでも喫煙者には気の毒な世の中になったと思う面もある。駅のホームや路上などから煙草が追い出され、吸い殻が散らばっている光景というのはいつしかあまり見かけなくなった。同様にテレビドラマから喫煙シーンというのも排除されて久しい。シリアスな場面には欠かせない小道具だったし、これを渋く扱うのが役者の芸の見せ所でもあった。まして、パイプ煙草や葉巻となると、個室で深夜隠れてひっそり楽しむ隠微な世界のものになっている。

そんな息苦しい喫煙者たちの解放区が「シガーバー」だ。重い木の扉を開けると、薄暗い店内のカウンターで男たちが背中を丸めるようにして、持参のものをやっている。椅子や調度品のそこここに、甘いような苦いような、ねっとりとした煙と酒の匂いが染みこんで、会話もひそやかにぼそぼそと秘密めいて、ちょっとした異界の趣きがある。酒だけ飲んで帰ったが、煙草をやらない身でもその匂いは嫌なものではなかった。



0510 pipe man

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