2016年8月25日木曜日

風泥棒

先日のお盆過ぎ、後輩が遊びに来て泊まっていった。目が覚めたら、横に置いてあるはずの扇風機がない。昨夜は宵っ張りの後輩を残して先に寝た。暑い夜だったが、寝室にしている2階には冷房の類いはなく、一台しかない扇風機にタイマーをかけて寝たのだが。
その扇風機は後輩が寝室に使った別室にあった。聞けば「タイマーが切れて止まっていたので…」としれっとしている。そういうことをするか。先輩だって、暑くなって目が覚めたらまた使うこともあるだろうに、枕元からこっそり奪い去るとは油断のならないことを。
家族が一緒に寝ていて、掛け布団や毛布を引っ張り合う、という経験はあるが、こういうのは初めてだ。邪悪な顔になってしまった。


0822 kazedorobou

2016年8月24日水曜日

酔っぱらい

先日の夜。そろそろ寝ようかと時計を見たときだった。携帯電話が鳴った。むかし世話になった先輩からだった。リタイアして20年、ガーデニングや水彩画を嗜み、大型バイクを乗り回したりもする80歳、なかなかいけてるエイジングの人だった。聞けば、夫人が海外旅行に出かけ、自分は居残ってひとり酒、気まぐれで電話をかけたという。
かなりきこしめした状態で、その夜はどういう加減なのか妙にからんでくる。こっちは一滴も入ってないシラフだし、時間が時間だったので、つい面倒になり雑な相槌をうっていると説教が始まる始末。うんざりして黙っていると「おい!☓☓(ここに別人の名前が入る)おまえ、聞いてるのかっ!」

間違い電話ではなく、つい間違えて別人の名前を呼んだと思うのだが、あまりといえばあまりな狼藉ではないか。先輩もすぐ間違いに気付き、さすがに気兼ねしたのか、
「ま、あまり長くなってもアレなので…」と意気消沈気味の尻切れで電話が切れた。

街や電車から酔っぱらいが減ったという印象を随分前から持っている。こういう先輩のような酔態芸も、やがて落語の中だけになっていくのだろうか。



0801 a memory of summer

2016年8月22日月曜日

晩夏の憂い

お盆が過ぎると風の温度が変わってくる。盛夏に頻りに鳴いていた蝉も主役が法師蝉に移り、庭の百日草も色が抜けてくる。「今年の夏も過ぎてゆくわいな」・・・いくつになっても夏がピークを過ぎて秋の気配が少しづつ立ってくるようになると、何やらうら寂しい気がするのは、子供の頃の記憶のせいだろうか。
ついこの間まで暑さに虐げられ、ふうふう言っていたのに、その熱気が弱まると急に寂しくなるというのは、人間づきあいでも経験することだ。ちょっとはた迷惑なほどお節介だったり、口騒がしかった人が急にいなくなると、しばらくぽっかり穴が空いたようになる。あんなに煩わしく避けたいほどに思っていたのに…この心の変化に自分で驚き、ときに喪失感すら感じる。ただ過ぎに過ぎゆくもの、春夏秋冬



0727 a girl 

2016年8月18日木曜日

ラジオ体操

夏休みの朝は6時起床、6時半ラジオ体操というのが決まりだったが、いまはどうなのだろう。公園などに集まってラジオ体操をしている人たちをよく見かけるが、高齢者とペット犬ばかりで子供の姿はない。子供が集団で遊ぶ光景というのは昭和の中期頃まで、相当なむかし語りの話で、今の親世代が子供だった頃にはすでに消えていたように思う。少子化が進み、子供たちが大勢集まって、外で無邪気に遊んでいる、これはもう、トキとパンダが集団で群れているような「もったいない」風景で、日本の自然世界ではちょっと出現が難しいかもしれない。グラウンドでサッカーや野球の練習をやっている大人管理のものはあっても、自然に集まった“天然もの”というのは昭和の風景になってしまった。



0729 sleeping alone

2016年8月4日木曜日

ワニが出た!

夏、川遊びをしていて初めてオオサンショウウオに出会った時の印象がこれだった。サンショウウオという生き物が川に棲んでいて、噛まれたら指を食われてしまう、とは聞いていたがそれまで見たことは一度もなかった。田舎の小学生は川の指定場所で午後の二時間ほどを川遊びで過ごすが、その日も水に潜って岩の間を手で探りながら魚を捕っていた。するとぬるっとした大きな感触がある。川の主のような巨大な鯉か、それともオオナマズだろうか。いずれにしても普通にいる川魚とはまるで違う手触りだ。水面に上がって息を吸い直してから再び潜り、獲物を掴み出そうとそうっと腹の方を撫でながら、どこかひっかかりのある場所を探っている時だった。びくん!と獲物が体を一回わななかせ、突進するように穴から出てきて、股の下をくぐった。
見ると1メーター以上もある黒ぐろとした物体にはなんと手足もついている。ぶつぶつだらけの気色の悪いカラダに大きな頭。ワニだ。「ワニが出た!」と大きな声で叫ぶと小学生だらけの川は大騒ぎになった。年長の中学生やら大人やらが木の棒を手に集まってきて、浅瀬に追い込むようにしてその物体をついに捕らえた。生き物はなお抵抗し、捕り物に使われた棒に噛みついて暴れている。
「これがサンショウウオや。殺したらあかん。役所か消防に連絡せい」誰かがそう言って、大きなタライに生き物を押し込んだ。
「こんなんに噛まれたらえらいことになるぞ」そう聞いて、さっき下腹を手でさすっていた小学生は唇を紫色に染めて震えていたのでした。



                                    ありゃ化け物だでのう
0726 old woman

2016年8月3日水曜日

くわがた

夏の昆虫採集といえばクワガタ。夏休みは毎日雑木林や栗林に通った。木箱に入れて飼うのだが、飼うことが面白かったわけではなく、たぶん狩猟本能みたいな生理的な欲求でやっていたことだろうと思う。魚とりもセミとりも、根っこにあるものは一緒。男子たるもの山や川で狩りをしておとこを鍛えるのである。中学生になると採らなくなったが、町で買い取ってくれる店があることを知り、小遣い稼ぎにしたこともある。
クワガタ採りで鬱陶しいのが、蜂とヘビ、ムカデ。オオスズメバチも樹液にいることが多く、これに刺された時は焼け火箸を当てられたような衝撃があった。ヘビやムカデは木の上からクワガタと一緒に落ちてくる。枯れ枝かと思ったら青大将で、当時はヘビも割合平気だったので、「なんだヘビか!」程度のことだったが。こんなものにビビっていたのでは、田舎の男子は務まらないのである。

都会で暮らすようになると昆虫は縁遠いものになったが、丹那では夜になると窓の明かりにクワガタが飛んでくる。ヘビもちょくちょく見かけるが、びくっと身がすくんで、昔の男子の面影がなくなってしまった。


                          アカンタレやのう!
0724 farmer

2016年8月2日火曜日

裸で寝る

やってみた。身体にまとうものは何もない。完全無防備。何かあるといけないから脇に下着を置いておく。素っ裸で布団に入る感触はとてもよい。少し冷やっとした木綿の当たり。くすぐったいような嬉しさが、全身の皮膚のあちこちで湧き上がってくる。特に、常はパンツで隠された部分、ゴム一本の締め付けもなく、いつも密着してまといついていたものが無くなってみると、このあたりを中心にじわーと広がる開放感と清涼感がたまらない。ああ、これか!裸族の気持ちが少し分かったような気がした。たしかに日本の夏はこれに限る。布一枚でこんなに変わるとは、逆にパンツという文明がいかに人間を縛っているか、ということでもある。

裸族は裸でいることが普通なので、つい油断して、宅配の受け取りなどで配達人をびっくりさせてしまったり、弟の部屋に友達が来ていることも知らず、姉が裸で入ってきた、という話もあった。慣れてしまうと、当初のワクワク感も徐々に薄れ、裸への注意も疎かになる。



0723 parent-child horse